改訂世界土壌憲章2015 (the Revised World Soil Charter)

Original → http://www.fao.org/globalsoilpartnership/highlights/detail/en/c/330570/

初版の世界土壌憲章(1982)の有効性の継続を評価しつつ,今日直面するより難しい土壌の問題に取り組むため,FAO理事会が設立した地球土壌パートナーシップ(GSP)が牽引し,幅広く専門家の意見を取り入れながら,地球の土壌資源の持続可能な管理を進めるために「健康な土、健康なくらし」を呼びかける国際土壌年(2015)を機に,改訂世界土壌憲章(2015)が第39回FAO総会(2015年6月)にて採択された。

<翻訳版PDFはこちら>

*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_

国際連合食糧農業機関

改訂世界土壌憲章

2015年6月

序文

健康な土壌は、食糧、バイオマス(エネルギー)、繊維、飼料などの製品の多様なニーズを満たす上でも、また、世界のすべての地域が確実に不可欠な生態系サー ビスを受けられるようにする上でも、基本的な前提となるものである。しかし、人類は土壌資源に対する前例のない圧力に直面している。とりわけ、急速な都市化による土壌のコンクリート被覆を始めとする各種の土壌劣化が大きな影響を与え、食糧安全保障や生態系のバランスを脅かしている。持続可能な開発の目標が検討され、早晩、実施されようとしている今、それらの目標を実現するために持続可能な土壌管理が確実に実行される態勢を整えておくことが何よりも第一に求められている。

幸い、危険な流れを逆行させ、増加する人口を養うために必要な健康な土壌を維持するには、国、地域、多国間のあらゆるレベルにおいてより強制力のある行動を起こす必要があるという認識は存在する。何より象徴的なのは、国連総会が毎年12月5日を世界土壌デーとすることを正式に承認し、2015年を国際土壌年(IYS)として宣言したことである。どちらも2015年を超えて政策立案者の間や広く社会一般で大幅に認識を高めていく ための土台となるものである。

土壌資源の保護はFAOの負託の核を成すものであり、その運営機関はこの重大な問題に対処し、新しい法律文書 やアプローチを通してすべてのステークホルダーのエネルギーを結集する方策を探ってきた。その一つが2012年12月のFAO理事会で設立され、現在活動中の地球土壌パートナーシップ(GSP)である。自主的な運動であるGSPは限りある土壌資源のガバナンスを改善し、世界の食糧安全保障のために健康で生 産性の高い土壌を確保するという重大なミッションに共鳴した有志パートナーの集まりである。

GSPとその科学的諮問機関である土壌に関する 政府間技術パネルのもとで、遠く1981年11月にFAO総会で採択された政策文書、世界土壌憲章(WSC)の改訂が行われた。いや、目まぐるしく変化す る現代において30年という歳月は長い。このため、これはとりわけ旧WSCに示されたビジョンと指針を、何より土壌汚染とそれが環境に及ぼす結果、気候変 動への適応とその緩和、都市のスプロール現象が土壌の可用性や機能に及ぼす影響など、この30年の間に新たに発生または悪化した問題を踏まえて更新するの によい機会となった。

改訂のプロセスでは、幅広く専門家の意見を聞き、その結果が2015年6月の第39回FAO総会での改訂世界土壌憲章 の全会一致の承認へとつながった。この画期的な議決がIYSの期間中に行われたのは、何よりふさわしいことだった。この憲章には、あらゆる地域と国において持続可能な土壌の管理を保証するために必要な政策の手段や措置のプログラムを立案できるように主な原則と行動指針を示し、ステークホルダーをグループに大別し、個々のグループの検討課題も示している。

この新憲章の採択が、ここで事足れりとすべきものではないことは言うまでもない。いや、む しろ、わたしはこれが契機となり、土壌の重要性を見直し、重度の劣化や脅威にさらされている土壌の持続可能な管理、保全、および回復を促す具体的な措置を 生み出す動きが連動して大きく膨らんでくるものと信じている。

この新憲章にさまざまなコンテキストにおいて現場レベルで使用できるように技術面に立ち入った喚起力のある原則や行動指針を補足する必要があることも明らかである。そのプロセスは現在、GSPおよびFAOの当該機関によって検討中である。

わたしは、この改訂世界土壌憲章の作成に至った作業を称え、それをあらゆる国と地域の政策決定者や土壌管理の実践者に示し、その使用に供することができることを誇りに思う。

JOSE GRAZIANO DA SILVA 事務局長

======================================================

改訂世界土壌憲章

FAO総会の改訂憲章採択

第39回FAO総会は、初版の世界土壌憲章を採択した決議8/81(1981年11月の第21回FAO総会)に立ち返り、

同憲章の有効性の継続を評価し、より今日の難しい土壌の問題やコンテキストに適合した改訂版を作成しようという、近年設立された地球土壌パートナーシップ(GSP)の諸機関、すなわちその総会および土壌に関する政府間技術パネルの時宜を得た発議を念頭に、

現在、あらゆる地域の貴重な土壌資源が飢餓撲滅や持続可能な開発のために合意した目標および目的の実現を著しく阻害する恐れのある脅威に直面していることを認識し、よって、緊急に危険な流れを逆行させる必要性があることを強調し、

GSP その他の発議にあるように、より具体的な国際協力および活動を引き出し、土壌劣化の流れを逆転させるためにリソースを動員し、効果的な土壌保全の手段をサ ポートしようとする動きを加速させるには、あらゆるステークホルダーに明確な原則と行動指針を広く浸透させる役目を果たす新・憲章が役立つことを認め、

初版の採択以降の土壌に関する主な政策展開および概念の進歩を反映した新・憲章が必要であることに同意し、

地球の土壌資源の持続可能な管理を進めるために「健康な土、健康なくらし」を呼びかける国際土壌年を機に、

第24回農業委員会(2014年9月29日~10月3日)および第150回FAO理事会(2014年12月1~5日)の勧告を踏まえ、

  1.  ここに改訂世界土壌憲章を採択し、
  1. 国連の組織およびあらゆる国際機関に対して、この憲章に定められた原則および指針を積極的に推進し、国、地域、多国間のあらゆるレベルにおいて、それを確かな政策や具体的な行動に移していくことを勧告する。

〔前文〕

  1. 土壌は地球上の生命の基盤だが、人間が土壌資源にかける圧力が限界に到達しようとしている。注意深い土壌の管理は、持続可能な農業に欠くことのできない要素であり、貴重な気候調節の手段となり、生態系サービスや生物多様性を保護するひとつの筋道にもなる。
  2. 2012 年6月にリオデジャネイロ(ブラジル)で開催された国際連合の持続可能な開発会議の成果文書「私たちの望む未来(The Future We Want)」は、土壌も含めた土地の良好な管理の経済的および社会的重要性、とりわけそれが、経済成長、生物多様性、持続可能な農業と食の安全保障、貧困 の撲滅、女性の社会的地位向上、気候変動への対応、水の可用性の改善に寄与することを認めている。

〔原則〕

  1. 土 壌は主要な産みの資源であり、生態系や人間の福祉につながるもろもろの商品およびサービス創出の原点となる。地球の土壌資源の維持もしくは強化は、人間の 食糧、水、エネルギーにまたがる安全保障のニーズを各国の天然資源に対する主権にもとづいて満たしていこうとすれば、欠くことのできないものである。とり わけ食とエネルギーの安全保障の実現のためにより多く求められるようになると見られる食糧、繊維、燃料の生産が、土壌にかかる圧力をますます高めていこう としている。
  2. 土壌は時間と空間の中における複雑なプロセスの作用と相互作用の結果もたらされるものであり、したがってそれ自体が、形態 も、特性も、また提供する生態系サービスの度合いもまちまちである。良き土壌管理のためには、その多様な土壌の能力を理解するとともに、貧困の撲滅や食の 安全保障の実現を視野に入れてその多様な能力を尊重した土地利用を奨励することが必要である。
  3. 土壌の管理は、土壌が提供する基盤、供 給、調整のサービス、それに文化的サービスがそれらのサービスまたは生物多様性を可能にする土壌の機能を大幅に損ねることなく維持または強化されたときに 持続可能となる。植物生産のための基盤・供給のサービスと、土壌が水質や水の可用性、さらには大気中の温室効果ガスの組成において発揮する調整のサービス のバランスをとることが、とくに重要となる。
  4. 土壌管理に関する決定は、通常は地方ごとに、多様な社会経済的コンテキストのなかで実施さ れる。地方の政策決定者が採択するのにふさわしい個々の施策は、通常は複数の階層や分野にまたがった数多くのステークホルダーの取り組みによって策定する 必要がある。その土地の伝承的な知識を必ず盛り込むという強い姿勢が重要である。
  5. 土壌が提供する個々の機能は、おもにその土壌の中に存 在する化学、生物、物理的特性の組み合わせによって決まる。持続可能性を実現するには、それらの特性の現状、土壌の機能におけるそれらの役割、また、自然 発生的なものにせよ、人為的なものにせよ、変化がそれらに及ぼす影響を知ることが不可欠である。
  6. 土壌は、微生物から植物相、動物相にま でわたる地球上の生物多様性の主要な貯蔵庫である。この生物多様性が土壌の機能、ひいては土壌に関する生態系財と生態系サービスを支える上で、基本的な役 割を果たす。このため、これらの機能を保護するためには、土壌の生物多様性を維持することが必要である。
  7. 土壌はすべて――能動的に管理 された土壌か否かを問わず――地球規模の気候調節や大小さまざまな規模の水の調節に関係する生態系サービスを提供する。土地利用を転換すると、土壌が提供 するこれらの地球規模での公益サービスが低下する可能性がある。地方または地域の土地利用の転換の影響は、土壌のその基本的生態系サービスへの寄与を地球 規模で評価するコンテキストの中でしか確実に評価することはできない。
  8. 土壌劣化は本質的に、土壌の機能、および人間の福祉にとって不可 欠な生態系サービスを維持するその能力の低下または喪失をもたらすものである。大幅な土壌劣化を最小限にとどめること、または防止することは、あらゆる土 壌が提供するサービスを維持するために不可欠なことであり、劣化が起こってから土壌を修復するより費用対効果もはるかに高くなる。
  9. 劣化を経験した土壌も、場合によっては、適切な修復技術を適用することによってそのコアの機能や生態系サービスへの寄与を回復することができる場合がある。その場合には、土地利用の転換を必要とせずに、サービスの供給に利用できる面積を増やせる。

〔行動指針〕

  1. 行動しようとする者すべてに共通する目標は、土壌が持続可能なかたちで管理され、劣化した土壌が修復または回復されるようにすることである。
  2. 良 き土壌管理のため――国家を始め、その能力が及ぶ範囲において、他の公的機関、国際機関、個人、団体、企業にいたるまで――あらゆるレベルの行動を持続可 能な土壌管理の原則を踏まえたものにし、持続可能な開発の流れの中で土地の劣化に対してニュートラルに対応できる世界の実現に寄与するものにする必要があ る。
  3. 行動する者すべてに、なかでもとりわけ以下のステークホルダーのグループには、下記の行動を検討することを奨励する。

個人および民間部門の行動

  1.  土壌を利用または管理する個人はすべて、その土壌の管理を託された者として行動し、そのかけがえのない天然資源が、持続可能なかたちで管理され、将来の世代のために保護されるようにしなければならない。
  2. 商品およびサービスの生産において責任をもって持続可能な土壌管理を実践する。

団体および学会の行動

  1.  土壌に関する情報・知識の普及に努める。
  2. 主要な土壌の機能が損なわれないように持続可能な土壌管理の重要性を訴える。

政府の行動

  1. 現存する土壌の種類と国家のニーズに適合する持続可能な土壌管理を促進する。
  2. 社 会経済および制度の面で障害を取り除き、持続可能な土壌の管理に好適な条件の創出に努める。土地の保有、使用権、融資制度の開設、教育プログラムに関連し て持続可能な土壌管理の導入の障害になっている問題を克服する方法ならびに手段を追求する。2012年5月に世界食糧安全保障委員会が採択した「国の食料 安全保障における土地、漁業と森林の保有の権利に関する責任あるガバナンスについての任意自発的指針」を参照する。
  3. 職階や分野の枠を超えて土地利用者の持続可能な土壌管理の導入を促進する教育・能力養成の取り組みの開発に参加する。
  4. 最終利用者に関係する持続可能な土壌管理の開発および実施に確かな科学的根拠を与える研究プログラムを支援する。
  5. 政府のあらゆるレベルにおいて政策指針や法規に持続可能な土壌管理の原則やプラクティスを盛り込み、できれば国家レベルの土壌政策の策定につなげる。
  6. 気候変動への適応およびその緩和、ならびに生物多様性の維持の計画立案における土壌管理のプラクティスの役割を明示的に検討する。
  7. 人間の健康と福祉を保護し、人間、植物、および動物にとって脅威となるレベルを超えて汚染された土壌の改善を促すために、一定のレベルを超える汚染物質の蓄積を制限する規則を制定し、実施する。
  8. 国の土壌情報システムを開発・維持し、地球規模の土壌情報システムの開発に寄与する。
  9. 持続可能な土壌管理の実施と土壌資源の全体的な状態を監視する国の制度の枠組みを開発する。

国際機関の行動

  1. 地球規模の土壌資源の状態と持続可能な土壌管理のプロトコルに関する公式報告書の作成と普及を促す。
  2. 高精度・高分解能の地球土壌情報システムを開発し、それが他の地球観測システムと統合されるようにする各方面の取り組みを調整する。
  3. 要請に応じて各国政府を支援し、持続可能な土壌管理の適切なプラクティスの取り込み、実施、監視を可能にする適切な法制度、組織、プロセスを確立する。

<翻訳:大西央士>

============================================