世界土壌憲章1982 (the World Soil Charter)

Original → http://www.fao.org/docrep/T0389E/T0389E0b.htm

国際連合食糧農業機関(FAO)は,世界の土地資源の最適な利用、その生産性の改善、さらに将来世代のためのその保全の原則を定めた世界土壌憲章を第21回総会において採択した。以下本文邦訳より。

<翻訳版PDFはこちら>

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世界土壌憲章

国際連合食糧農業機関(FAO)

1982年11月

前文

人類のその生存を維持する天然資源由来の食糧に対する需要は、近年、飛躍的に高まっている。FAOの『2000年の世界農業』における予測は、現在の栄養レベルを満たすだけでも、今世紀末までに50パーセントの食糧の増産が求められることを示している。しかも、飢餓や栄養不足を克服しようと思えば、またそのための食糧も必要になる。だが、土地の食糧生産能力には限界がある。その生産力の限界は、土壌や気象条件、それに適用される管理方法によって規定される。その限界を超えて土地を「掘り返す」と、必ず結果的に生産力の低下を招くことになる。

数多くの発展途上国や先進国で一様に、土地の劣化が農地面積の上でも、単位/面積当たりの収量を増やす上でも、さらなる農業の拡大を妨げる重大な制約要因のひとつとして浮上している。一部の発展途上国では、この農地の消失が恐るべき勢いで進行している。その結果、食糧自給率が低下し、当然のことながら、外国産の食糧への依存度も高まっている。このまま改善策をとらないと、今世紀末には発展途上国の土地の生産力の20パーセントが失われている可能性もある。

こうした現状を踏まえて、1981年11月に開かれたFAOの第21回総会は世界土壌憲章を採択した。この憲章は、世界の土地資源の最適な利用、その生産性の改善、さらに将来の世代のためのその保全の原則を定めている。

世界土壌憲章は、各国政府、国際機関、土地利用者の三者に対し、総じて、土地を目先の都合ではなく、長期的な利益のために管理していく取り組みを求める。なかでも、効果的な土地利用の技術・社会経済両面の要素を考慮に入れて人々が土壌保全作業に参加するのを奨励するインセンティブを設ける土地利用政策の必要性に、とくに注意を求める。

FAOは世界土壌憲章に従い、最適な土地利用の推進の基礎となる活動、すなわち土地資源のインベントリーの作成、劣化の危険性の評価、生産力の評価、土壌肥沃度の改善、砂漠化との戦い、土地の再生、一貫した土地利用の計画・訓練・制度の構築など、土壌の管理や保全について積極的にプログラムを推進していく。その過程で、FAOは各国の機関や、UNDP、UNEP、ユネスコ、WHO、WMOなど、それぞれに異なった角度から、効果的な土地利用の推進に関係している国連機関、さらには、保全の問題と取り組むその他の国際機関とも密接に協力していく。

私はこの世界土壌憲章を、人類の生存を左右する世界の土地資源のよき管理を実現させるためのひとつの手段として、すべての政策決定者と土地利用者に推奨する。

Edouard Saouma
事務局長

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世界土壌憲章

この会議は、

世界食糧会議(ローマ、1974年)の決議六により、食糧農業機関が世界の土壌資源の最も合理的な利用に向けた国際協力の基礎となる世界土壌憲章を定めることを求められていることに鑑み、

土地資源が限られていること、また現在、世界の土地面積全体のなかで、今世紀末には60億人に達する見通しの世界の人口を養うために使われているのはごく一部に過ぎないことを認識し、

さらに、世界農地改革農村開発会議(ローマ、1974年)で採択された「生態系のバランスや環境保護に然るべき注意を払った……土地の有効利用」を求める行動計画や、国連砂漠化対処会議(ナイロビ、1977)の土地の劣化や砂漠化と戦う行動計画にも鑑み、

栄養不良を根絶することを始めとして、人類の食糧必要量を満たすことは、以下の手段で可能であるとの考えに賛同し、
◆多毛作など、安全に実行可能な場合の食用作物の生産の強化
◆持続的収穫の条件が行き渡っている場合の、食糧生産のニーズを満たすことを目的とする新しい土地の開墾の導入
◆草地、林地の確立とよりよい利用

とくに水や風による侵食、または塩やアルカリにさらされている地域において土地の濫用や不適切な生産強化策によってもたらされている土壌劣化の危険性から生じる懸念を共有し、

FAOがユネスコ、UNEP、WMOなどの各分野の国際機関と協力して、関係各国の政府と協議しながら、集水域、および林業、放牧などの用途に必要な土地を永久植被で保護することも適切に考慮しつつ、とりわけ不可逆的な土壌劣化の危険性とともに求められる費用や投入資源の規模も目安として、まだ開墾可能な土地を評価することを目的に進めてきた調査の結果に留意し、

生産性の改善や土壌保全の支援の強化につながる決定的な前進が、各国および国際レベルにおける適切な原則および行動指針の採択と実施によって実現可能なものであるとの認識に立ち、

第6回農業委員会と第79回理事会で採択された結論と勧告に留意した上で、
1. ここに世界土壌憲章を採択し、
2. 国際連合ならびに実施に関連する国際機関に対して、それぞれの管轄領域内において、以下に定める原則および指針を実行することを勧告する。

〔原則〕

1. 人間が利用可能な主な資源のひとつである土地は、土壌と水とそこに生息する動植物で構成されている。人間の生存はその生産性の継続に依存しているので、この資源の利用がその劣化や破壊を招いてはならない。
2. 人々の生存や福祉、および各国の経済的自立にとって土地資源がこの上なく重要なものであること、そして、より多くの食糧生産を求めるニーズが急速に高まっていることも勘案すると、最適な土地利用を促進し、土壌の生産力を維持・改善し、土壌資源を保全することを最優先させることは不可避である。
3. 土壌劣化とは、土壌の水や風による侵食、塩類化、湛水、植物栄養素の枯渇、土壌構造の劣化、砂漠化、汚染などのプロセスの結果、土壌の生産性が量的に、または質的に、あるいは質量両面で、完全に、あるいは部分的に失われることをさす。それに加えて、農業以外の目的に利用されて日々失われている土壌も広大な面積にのぼる。食糧や繊維や樹木の生産増大に対するニーズが切迫していることを考えると、これらの開発は憂慮すべきものである。
4. 土壌の劣化は、収量の低下や水環境の変化を通して直接農業や林業に影響を及ぼすが、工業、商業などのそれ以外の産業や環境全体に対しても、たとえば洪水や河川、ダム湖、港へのヘドロの堆積を通して、深刻な影響を及ぼすことが多い。
5. 土地利用計画に、可能な範囲で最善の土地利用、長期的な生産性の維持・向上の確保、生産力のある土壌喪失の防止に向けた対策を盛り込んでいくのは行政の重大な責任である。当然、土地利用者自身も関与していくべきであり、それによって利用可能なあらゆる資源が最も合理的なかたちで利用されるようにすべきである。
6. 農家に対する適切なインセンティブを規定し、技術、制度、法律の枠組みをしっかりと構築することは、良好な土地利用を実現させる前提として求められることである。
7. 農家などの土地利用者に対する補助は、実質的なサービス重視のものにして、よき土地管理の手段の導入を奨励するものにする必要がある。
8. 場合によっては、土地保有の仕組みが農家レベルでの健全な土壌管理・保全策の導入の障害になっていることもある。土地所有者、借地者、土地使用者の権利、義務、責任のいずれに関するものであれ、そのような障害は世界農地改革農村開発会議(ローマ、1979年)の勧告に従って、さまざまな方法や手段を模索して克服する必要がある。
9. 土地使用者や一般国民には、土壌の生産力向上や保全の必要性や手段を十分に周知徹底する必要がある。とりわけ農業従事者を対象とするあらゆるレベルでの教育や公開講座や訓練には力を入れる必要がある。
10. 最適な土地利用が行われるようにするために、耕作、放牧、林業など、さまざまな土地利用の形態について、国の土地資源のさまざまなインプットのレベルに応じた適合性を評価することは重要である。
11. 幅広い用途に利用可能な土地は、将来、他の用途に利用する選択肢が長期にわたって、あるいは永遠に否定されることがないように、フレキシブルな形態に保つ必要がある。農業以外の目的への土地の利用は、可能なかぎり最大限まで、良質な土壌の占有または永久劣化を避けられるようなかたちで策定する必要がある。
12. 土地やその資源の利用や管理に関する決定は、土壌資源の搾取や劣化、場合によっては破壊につながる可能性がある目先の都合ではなく、長い目で見てなにがよいかを考えて行うべきである。
13. 土地開発の計画段階や開発計画の予算には、土地の保全対策を盛り込むべきである。

〔行動指針〕

以上の原則を受け入れる場合は、以下のような行動が求められる。

政府は、
i. 土地のさまざまな利用の形態への適合性と国のニーズを踏まえて賢明な土地利用の政策を策定する。
ii. 関係する資源法に合理的な土地利用と土壌資源の管理・保全の原則を盛り込む。
iii. 土壌の管理・保全の監視と監督、および考えられる選択肢のなかでもっとも合理的な選択肢が選ばれるようにするための国の土地資源の利用に関係する諸機関の間の調整の制度の枠組みを開発する。
iv. 未利用の土地とすでに利用されている土地の双方のさまざまな用途に関する適合性と劣化の危険性の見通しを評価する。政策決定者に、住民の意思を尊重しながら、なおかつ土地をその能力に従って利用する代わりの土地利用の形態を提示する。
v. あらゆるレベルで土壌の管理と保全に関する教育、訓練、公開講座を実施する。
vi. 土壌侵食や、農家レベルならびに水系全体のスケールでのその制御の方法に関する情報や知識をできるだけ広く普及させ、人々やその未来にとっての土壌資源の重要性を強調する。
vii. 土壌政策の実施のために地方の行政機関と土地利用者の連携を確立し、実証された土壌保全技術を実践するとともに、環境保護のために林業と農業で一貫した適切な対策を実施する必要性を強調する。
viii. 社会経済や制度の面で合理的な土地資源の管理と保全に追い風となる環境の醸成に努める。この環境には、土地利用者に土地を安心して保有していられるという安心感や適正な金銭的インセンティブ(補助金、税の減免、クレジットなど)を与えることも含まれる。ことに、相互に、また、行政機関と協力して適切な土地利用や、土壌の保全・改善を実現しようとしている集団を奨励する。
ix. 学術的研究プログラムを実施し、地域の社会経済的条件も相応に考慮に入れながら、現場での実際の土壌改善や土壌保全の作業に確かな科学的根拠を与える。

国際機関は、
i. 必要であれば、広報キャンペーンの展開、セミナーや会議の開催、適切な技術文書の発行を支援することによって、意識を喚起する努力を継続・強化し、国際社会のあらゆる部門の間で協力を奨励する。
ii. 政府、とりわけ発展途上国の政府に対して、要請があれば、適切な土地利用や土壌保全のプログラムの立ち上げ、実施、監視を可能にする適切な法規、制度、手続きの確立を支援する。
iii. 大規模な国際水系などにおいて、健全な土地利用の慣行を導入しようとする政府間の協力を推進する。
iv. 農業開発プロジェクトの土壌資源の保全・改善、農家レベルと水系レベルにおける投入資金やインセンティブの規定、主要なコンポーネントとして必要な制度構造の設立などのニーズにとくに注意を払う。
v. 土壌保全に関連する研究プロジェクトを支援し、技術的性格のものばかりでなく、土壌保全や土地資源の管理の問題と大きなところでつながっている社会経済的問題を探る研究も支援する。
vi. 土壌保全プログラムに関連して得られた経験や情報、また、世界各地の農業生態学上の地域で得られた結果が確実に蓄積され、整理され、伝達されていくようにする。

〔想定されるフォローアップ〕

世界土壌憲章に含まれる行動指針は土地の開発・保全のさまざまな分野におけるフォローアップを必要とする。

土地資源・土地利用計画の評価

  • 土壌調査および土地評価
  • 土壌劣化・砂漠化の評価
  • 農業生態学的見地から見た土地利用の可能性の評価
  • 人口扶養力評価
  • 最適な土地利用の計画
  • 上記の作業分野の訓練

土壌管理と肥料

  • 土壌肥沃度の維持・改善
  • 肥料の効率的利用の推進
  • 有機肥料、バイオガス、窒素固定法の利用の促進
  • 微量栄養素欠乏の評価と解消
  • 土壌・植物検査
  • 総合的植物栄養体系の推進
  • 耕起法の改善
  • 移動する栽培地域における生産の改善
  • 上記の作業分野の訓練

土地資源の保全と再生

  • 土壌保全と水系管理
  • 土壌保全法と土壌保全政策
  • 塩土、アルカリ土の再生
  • 砂漠化との戦い
  • 土壌保全サービスの開発
  • 上記の作業分野の訓練

FAOはこの行動指針に関するフォローアップ活動のための協力を惜しまない。

問い合わせは下記まで。

世界土壌憲章
国際連合食糧農業機関
土地・水開発部
Via delle Terme di Caracalla
00100 Rome Italy

<翻訳:大西央士>

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